HIROMI NAKAMURA
中村光美
見えるものにではなく、見えないものに目を留めます。
見えるものは一時的であり、見えないものは永遠に続くからです。
新約聖書 Ⅱコリント4:18

2021.3 ステートメント(東京藝術大学 卒業制作展にて)

2024.8 ステートメント (グループ展 「grid next」(biscuit gallery)にて)
…………
「それじゃ君、絵をかいちゃいけないって言うのですか?」
「よく見るほうが先きです」
「いや、もうよく見ましたよ、描きたいと思うものだけはね。ああ!どうして道具を持ってくることに気がつかなかったのだろう!」
霊は頭を横に振った。彼がそうすると、その髪から光がとび散った。「そのようなものは、ここでは役に立ちません」と彼は言った。
「それはどういうことです?」と亡霊が訊いた。
「地上であなたが絵をかいたときーー少なくとも初期のころはーー地上の風景のうちに天のおもかげを捉えたから、あなたはかいたのでした。あなたの芸術が成功したのは、ほかの人たちにもそのおもかげを見られるようにしてやったからです。
だが、ここには、おもかげならぬほんものがあるのです。地上の人びとはここから、お告げを受けているわけですからね。この国についてわれわれに話したところで、なんにもなりません、われわれはすでにこの目で見てしまっているのですから。じつを言うと、あなたよりもわれわれのほうが、よく見えるんですよ」
「では、ここで絵をかいてもぜんぜん意味がないというのですか?」
「そうは申しません。あなたが人格にまで成長したとき(いや、気にしないで下さい、われわれもみなそうだったのですから)あなたは、何かをほかの誰よりもよく見ることができるようになりましょう。そのときには、あなたの見たものについて、お教えをねがわなければなりません。が、いまはだめです。いまあなたのなすべきことは、見ることです。さあ、ごらんなさい。彼は無限です。ーー
…………
C.S.ルイス『天国と地獄の離婚』